「音楽現代」2007年6月号 第23回《北京(その5)》
「子供たちの響き アジア」実行委員会 代表 小林武史
中国語は発音が難しい。アクセントが違うとまったく通じない。
中国は、九五九万七千平方キロの国土を持ち、日本の二十五倍の大きさで、
約三十の省(県)、市、自治区があり、大きく分けて五十六の民族がいる。
個々の間では自分たちの土地の言葉を話している。北京語と上海語はまったく違って、通訳なしでは通じない。
もっとも現在は何処へ行っても公用語の北京語が通じるので困ることはない。
北京語はアクセントが四つあって、これを一声二声三声四声と分けている。
例を挙げれば、
■馬(字の通り) 四声
■麻(字の通り) 三声
■罵(ののしる) 二声
■媽(母) 三声
日本語で読むと全部「マ」である。
会話をしていて、発音を間違えると大変なことになるし、まったく意味が通じないことになる。
最初に中国へ行ったとき、一ヶ月使って、ついに一度も通じなかった言葉があった。
「我要茶水」-書けば分かるものを発音したために通じなかった。
お茶がほしいという意味だったが、誰かに口移しで教わって行ったのでついに通じなかった。
因みに広東語に至っては八声半のアクセントがあるといっていた。
飛行機で一時聞くらいの武漠へ火車で二〇時間もかけて旅行したが、疲れはしたものの
それなりに見開を広めることにもなった。
当時、北京の駅前広場にはたくさんの人が毛布にくるまって蹲っていた。
それに暗いので、つまずきそうになりながら、非常に遠い列車乗り場まで駆け足でたどり着いた。
大きな荷物はワゴンで運んだが、とにかく走らせられた。
列車に荷物を乗せるとき、私は腰が痛いので、女性の金さんに運んでもらった。
車室は四人部屋で、私は上の段、下にはフランス人、金さんは向かい側の上、その下の中国人の鼾のすごいこと。
耳栓をした。中国はうるさい所(ホテルなど)が多いので耳栓不可欠である。
この寝台車はベッドがそのままで、座るようには直してくれない。
通路に立っているか、自分の上段のベッドに横になっているかどちらかである。食堂車はとにかく混んでいる。
列車の中から眺める景色を金さんに説明してもらった。
土を盛った墓が多い所があり、現在土葬は禁止されているが、貧乏な人や慣習などもあって、
なかなか火葬にしたがらない地区があること。
またトウモロコシ畑が延々と続いている所はやはり貧しく、トウモロコシしか作れず、
栄養失調で長生きできないのだということであった。
北京から南下するに従って緑が多くなり、水田も増え、どんどん模様が変わってくる。
揚子江に近づくに従って、その支流が多くなり、水も豊かになり、緑も増えてくる。
蓮の葉も随所に見られるようになり、驚いたことに、同じ中国でありながら(というのは、社会主義が徹底して
いて、どこでも或る程度生活の差がないのかと思っていたから)、北のほうでは家といっ
ても土で固めた小屋みたいなものが多かったのに、南に下って水が多くなると立派な邸宅に変わってくる。
あえて”邸宅”と書くのは、それほど立派な家屋だからである。
中国では農家の人が金持ちだ、と開いたことがあったが、嘘ではなかった。
今の中国では農家の人たちのノルマがあり、決められた分を提供すれば、後は自分たちで作った分は
個人で取得してもよいという政策なので、他人より働いた人は収入が多くなる道理である。
そのために労働力が必要で子どもは一人しか作ってはいけないという法律がありながら、
何人も子どもを作る人があり、中国の人口が何人かと開かれても、よく把握できないそうで、
十三億とも十五億ともいわれている。
広大な中国の中には、まだ我々が知らないことのほうが多いようである。
武漠に着いた。大きな町が三つで成り立っている市で、私たちが降りた駅は武昌という駅であった。
十五分も停車するといっていたのできっと大きな駅なのだろう。
中国音楽家協会湖北分会副首席の姚先生と
同秘書長の余先生が迎えに出てくれていた。
中国では肩書が多い。 余先生の肩書きは、
中国音楽家協会湖北分会秘書長
湖北省少年児童文化芸術委員
湖北省家庭教育会理事
余 遠榮
とあった。
私の名詞は名前と住所だけなので物足らなそうであった。
遅く着いたので、練習は今日の夜と明日の午前中だけ。
ピアニストのことがあるので気が気ではない。中国はしきたりを重んじる国民である。
着いてすぐ、新世界美食城という武漠一といわれるレストランで歓迎会があった。
十人くらいの関係者が同席し、この音楽家協会首席の謝功成先生が同席された。
武漠という所は、中国革命の発祥地であり、人口約七〇〇万。
ここが革命の発祥地であれば当然反日感情も強いと思うし、政治的にも日本とはだいぶかけ離れている。
人種も違うし問題が多々ある土地かと思ったが、ここの人たちは度量が広く純粋であった。・・・・・・