第30回『“名弓”の材料原木 現在では伐採禁止に』小林武史

弓を選ぶのは、余程の経験がなければならない。
弾力性や吸いつき具合を調べるのには、相当の鑑定力か、演奏技術がなければならない。
音楽とは、演奏された音を聴いて、良しあしを判断するのである。
彼の指揮法がどうとか、あの人の運弓法がこうとか、ばかな音学評論家が、
何かに書いていたことがあったが、さすがに現在ではいなくなったようである。
さて、弓作りにとって一番大切なのは、材料である。
前に弓の材料はペルナンブコと書いたが、世界中の音楽関係者がそう呼んでいるのであって、それは正確ではない。
ペルナンブコとは、ブラジルの州の名前である。
そこで取れる木という意味だろうと思うのだが、私も何回かブラジルに行って調べたが、はっきりしたことはわからなかった。
作曲家の伊福部昭先生に調べていただいた。
先生は昔、農林省にいらしたことがあり、植物のことには詳しくて、
またヴァイオリンも演奏されていたことがあり、細かく説明してくださった。
世界中のペルナンブコと呼ばれる木は、日本の学名スハウ(蘇枋)で、蘇方、蘇芳、蘇木と書き、熱帯地方に産する高木。
黄色の花を開き、材は楊弓(ようきゅう)などに作り、そのカンナクズは赤紫色の染料とする。
長い間、フランスはじめヨーロッパで染料として、南米から輸入していたこの木に、
目をつけたのが、前回述べたフランソワ・トゥルテであった。
試しに弓を作ってみて驚き、これ以上の材料はない、ということで、数々の世界に残る名弓を作り出した。
そこで世界中の弓作りがこの木を使うようになり、数が減り、現在では伐採禁止になってしまった。
この木は人工的に植林しても良いものができず、密林の中で、長い年月をかけて育ったものでないと使えないそうである。
ブラジルの私の知人(ドイツ人)が伐採し過ぎたので罪滅ぼしに、密林の中に二十万本植えた、というので、
いつ使えるようになるかを聞いたら、二百年後とのこと。
最近、自然破壊の進んでいるブラジルで、本当にこの木が無くなったらどうするのであろうか。
まだ何十年分の材料があるとはいうものの、百年後は音楽も必要なくなるのだろうか。
私は楽器と弓をそろえるのに五十年かかった。
現在の若い人たち、特に日本人は、親から買ってもらった良いものを持っている人がたくさんいる。
良い楽器と弓は、日本に一番多くあるといわれている。(バイオリニスト)

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