第29回『姓より名前が大切 家族で作られる楽器』小林武史

弓の元についている箱を、なぜFrog(カエル)というのか、知人に聞いてみたのだが、
カエルの形をしているからだろう、というだけで、私にはカエルに見えないのだが、
また世界中でカエルだというのだからそうなのだろう。
それは普通、黒檀(こくたん)でできていると書いたが、弓作りに自信のあるものができたときには、
ぞうげやべっ甲を用いて、ネジの頭も金を使うことがある。
インチキな業者は、あまり良くない弓に、ぞうげやべっ甲、そして金のネジをつけて高く売ることがある。
弓作りの巨匠は何といっても、フランスのトゥルテ(Tourte)である。
弓はどういうわけか、フランスのものが一流で、ほかに、トゥルテと並んで、二大巨匠といわれたペカット(Peccatte)がある。
楽器作りも、弓作りも、家族で作られているものが多く、
楽器では、有名なストラディヴァリやグワルネリユウスも家族があり、
その作品も、アントニオ・ストラディヴァリが一番良く、グワルネリユウスも、ヨゼフが一番良い。
弓も同じで、トゥルテのファミリーが何人かいて、フランソワが一番良い。ペカットも、ドミニコが一番良く、
ただトゥルテだ、ペカットだといわれても、姓だけではだめで、名前が大切である。
フランスにヴィヨーム(Vuillaume)という楽器や弓を製作する人がいたが、
弓などは自分で作るよりも、工房で人に作らせていた方が多かったようだ。
ヴィヨームの弓だといわれて買ったものがペカットだったりすることがあり、かえって良いものが多い。
ヴィヨームの工房で働いていた有名な弓作りは15人にも達する。
現在では、それらの弓を鑑定して、ヴィヨーム・ペカットだとか、ヴィヨーム・シモンとか呼ばれている。
ヴィヨームだといわれて買ったものが、ドミニコ・ペカットだったりすると、大変得をしたことになるが、
大体、頭の形を見ればだれの作だということがわかるようになっている。
ヴィヨームというのは会社の名前だと思えばよく、ヴィヨームの工房で、
ドミニコ・ペカットが作った弓は、ヴィヨーム・ペカットと呼ばれることになる。
フランソワ・トゥルテは、何百万円から五千万円まで、ドミニコ・ペカットは、それより安いが、
現在世界に残る二大作家であることに間違いない。
フランソワ・トゥルテが現在の弓の形にしたという説がある。
彼は、1747年、パリの生まれで、1835年に亡くなっている。
ドミニコ・ペカットは、1810年にミルクークに生まれ、1826年から37年までヴィヨームの店で働き、後に自立した。
1874年に亡くなっている。次回は材料について。(バイオリニスト)

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