第25回『食文化も同じ 目をつぶって味わい、聴く』 小林武史

食文化という言葉がある。
文化とは何ぞや、といわれると困るのだが、私が各国を回ってみて、
日常の食物と、そこの住民の性格が一致することを発見した。
私にとって世界一バラエティーに富んでいる食事は中国料理であると思う。
宴会などで場合によっては、何十種類も料理が出ることがあり、同時にお茶も欠かせないものである。
音楽の世界で比較してみるのも面白い。
チェコ人はおとなしい演奏をする人が多い。
これは、チェコ料理に比例しているし、フランスやイタリア料理は、自己主張の多い音楽性と関係がありそうだ。
オリンピックのおかげで、スペインという国が身近に感じられるようになり、食物も知られるようになった。
やはり情熱的な踊りと音楽は、影響がありそうだ。
ギリシャの食物も、ギリシャ人の性格をよくあらわしているし、トルコ料理もまたしかり。
南米でもラテン系の食物が多く、ブラジルでは、フェジョアダ(豚の内臓と豆を煮込んだ料理)などがあり、国の歴史を物語っている。
昔の日本食といえば、魚と野菜といわれていたが、
西洋人にとって、日本人の演奏は表現が乏しいと思われていた時代があった。
脂っこくギラギラしたものがなく、わびとか、さびといったものが流れている文章や詩が、
他国の人々に理解されにくかったと同じに、日本人の洋楽演奏も西洋人にはあまり受け入れられなかったようである。
現在は、第二次大戦後、まずアメリカの影響からヨーロッパ的なものまで摂取するようになり、
今や大きく日本の食文化も変わってきたような気がする。
それと同時に、若い演奏家もぞくぞく世界にはばたいているが、いまだに東洋人の音楽、と批評されることがある。
中国、特に南の方では、四つ足の物は机とイス以外は何でも食べる、といわれているが、それは少し大げさな話としても、
今まで私がごちそうになったものを挙げると、まず蛇、穿山甲(アルマジロ)、犬、蝸牛(かたつむり、エスカルゴというと格好がよい)・・・。
また、海の虫ですといって出されたもので魚のエサにする沙蚕(ごかい)もあった。
カエルは普通で、鶏の足や頭もあり、アヒルの水かきのついた足やハトはごちそうであり、これを気持ちが悪いといって騒ぐのは失礼である。
アラブでは、羊の脳みそや目玉がごちそうであり、ラクダも食べる。
そして中国人は、野菜もたくさん食べる。動物性脂肪は中国茶で流すし、理想的な食生活を送っていると思う。
味付けのうまいこと天下一品であり、虫だ蛇だといわなければこんなうまいものはない。
今や世界の第一線級の中国人演奏家たちをカーテンの後ろで弾かせ、西洋人の批評家に聴かせたら感激するはずである。
目をつぶって味わい、目をつぶって聴くことも大切である。(バイオリニスト)

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