第22回『代償を求めない友情 ブラジルのアミーゴ』 小林武史
ブラジルの北の方にセアラ州があり、そこのクラトという町に教えに行った。
小さな町なのだが、有名なお祭りがあり、飛行機は満員であった。
ホテルも満員なので、土地の有力者の家に泊まることになった。
ブラジルは貧富の差が激しく、その有力者は豪邸に住んでいて、私たちのためにも立派な部屋を用意してくれた。
私が教えた子供たちは、壊れた教会の土間で、とても楽器とはいえない、壊れたヴァイオリンで練習をしていた。
着ているシャツもボロボロで、はだしである。
その教会の牧師さんは、70を超えた老人で、やはりみすぼらしい格好をしていたが、目は輝いていた。
少しずつ寄付を集めては、子供たちに音楽を教えていた。子供たちは、モーツァルトやバッハを聴かせてくれた。
ブラジルでは、アミーゴなしでは生きていけないといわれている。
アミーゴとは友人という意味だが、彼らのいうアミーゴとは、もっと深い意味があり、
一つの物を二人で分け合う仲といった方が分かりやすいと思う。
牧師さんと子供たちの仲は、アミーゴであり、子供たちも、原野にある果物や木の実を、牧師さんに持ってきていた。
私がお世話になった金持ちたちにもアミーゴがいて、私たちを助けてくれた。
帰りの飛行機のチケットは持っていたのだが、満員で予約なしでは乗れないという。
困っていると、彼は空港のアミーゴに電話をしてくれて、席を取ってくれた。
出発一時間前に空港に行った。
大変な混雑で、身動きも出来ないほどであったが、私たちには、すんなりと搭乗券をくれた。
その直後、群集が騒ぎだした。騒ぎが大きくなったとき、警官が来て、棍(こん)棒を振り回して、何人かを連行していった。
私たちを送りに来ていた金持ちの彼に、何の騒ぎだったか聞いてみた。
彼らは予約しておいた搭乗券がもらえないといって騒いだとのこと、
またその飛行機に乗らないと、会社を首になるといって騒いだそうで、こんなことは珍しくないという。
なぜ予約しておいたのに搭乗券がもらえないのかと聞いたら、それはあなたたちに回したからで、
私は空港でもどこでもアミーゴがいるが、彼らはアミーゴがいないから仕方がないのだと笑っていた。
飛行機に搭乗してからも、席がないから降ろされた人も何人かいたので驚いた。
同行したブラジル人二世の人がいっていた。「アミーゴなしでは何もできません」。
最近、やはりブラジルの北にあるペルナンブコ州のレシフェという都市に行った。
ヴァイオリンを教えに行ったのだが、土地の人は皆親切あった。
子供の親があちこち案内してくれたり、家に呼んで、その地方の料理をごちそうしてくれた。
今日からアミーゴだといって歌も歌ってくれた。
代償を求めない友情をアミーゴというのかもしれない。(バイオリニスト)