第4回『猛獣に触れた感覚』 小林武史

高田栄一先生という爬虫類研究家の大御所と知り合って、四十年以上にもなる。
 今は亡き團伊玖磨先生からのご紹介であった。
團先生は高田先生の影響もあってか、蛇を飼われていた時期もあったようだ。
 ところで、蛇にも意思は伝わるものである。
犬や猫のような反応こそないが、こちらが緊張し過ぎて蛇に接触すると、咬みつかれたりする。
高田家で遊ぶつもりでニシキヘビを首に巻いた時、私が素直な気持ちになっていなかったせいであろうか、
絞められて気絶しそうになったことがあった。
 そこで私は爬虫類と音楽をどう結び付けるかを考えたりしもした。
演奏家は相手に自分の意思を伝えなければならないのだから・・・。
 かつて、某テレビ局で、バイオリニストの小林武史が動物好きの作曲家を訪ねるという番組が作られた。
私が逗子の駅で降りると、大きな荷物を持った人とぶつかって、
「やあ、失礼しました」「いや、こちらこそ」という場面があった。
ぶつかった人が持っていた物の中でガサゴソ音がしているので、「なんですか・・・」と尋ねるところからスタートした。
 そのぶつかった人物が高田先生で、偶然にも團先生のお宅にこの“荷物”を持っていくところなので、
「では、ご一緒しましょう」という設定であった。
 荷物の中身は東南アジア産の大蝙蝠(コウモリ)で、雄と雌の二匹が入っていた。
羽を広げると1メートル近くあるが、顔は犬のチワワに似ていて、鼻も犬とそっくりであった。
 團先生のお宅では、「動物と音楽は類似点があり、音の出し方や鳴き方、発声法で自分の意思を伝える・・・」
などと鼎談(ていだん)を収録した。
帰る時、私はその番の大蝙蝠をいただくことになった。
 その当時、私は東京・世田谷の用賀に小さな一軒屋を借りていた。
部屋数は三つあったが、一番大きな八畳間で次から次へと生き物を飼うことになってしまった。
セントバーナード、マルチーズ、大巴旦(おおばたん)という大きな鸚鵡、ダルマインコ、金魚、そしてその大蝙蝠などなど・・・。
 私は病みつきになり、暇さえあれば高田家に行き、よく馴らされていたクマネコやハナグマなどと取っ組み合いをして楽しんだ。
少々咬まれてもそれが愛情の表現であることも、少しは分かってきた。
 高田先生のお宅には珍獣も多かった。
ある時、南米産でイタチ科のタイラという、尾まで入れると1メートル以上ある小型の豹みたいな動物が檻に入っていた。
 私はごく自然に扉を開け、触ってみた。ふと振り返ると、高田先生は青くなって口をパクパクさせ、
「それはまだ飼い馴らしていないんだよ」と言われた。
その時、私は全く緊張感がなく、そして自然体でもあったのだろう。
 演奏会でも、常に無心でタイラに触れた感覚をもって臨みたいものである。

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