第10回『男子生徒少ない韓国の芸術高校 音楽では食べていけない』 小林武史

 韓国での演奏会は、今度で3回目になる。
前回はオリンピックの前だったので、大きな建物の谷間を車で走って目を見張る。
オリンピックが行われるとこんなに違うものなのか、そういえば日本もそうだった。
ヨーロッパから帰って来たら高速道路ができていたし、前に住んでいた家を探すのに大変苦労したのを思い出す。
今回はソウル市内にある芸術高等学校内での演奏会。
オーケストラは、このハイスクールの音楽部員による合奏団、
指揮は、この学校の創立者の一員でもあり、現在、名誉校長の林元植先生。
 曲目は夏田鐘甲作曲のバラード。
この曲は3部に分かれていて、祭祀(し)、祈り、舞の順になっていて、
韓国の伝統音楽を素材にした弦楽合奏とバイオリン独奏のための曲である。
音の構成上の問題があって、今回は最初の祭祀だけは、ピアノ伴奏だけで演奏した。
この学校は舞踊、絵画、音楽などの部があり、生徒も千人を超す。
バイオリンをやっている生徒も二百人以上いて、今回の出演者は弦楽部から約30人ほど。
しかし、その中に男の生徒はたった一人だけであった。
現在71歳を超す夏田、林の両先生であるが、この曲は夏田先生により私のために1974年に書かれたものであり、
林先生も夏田先生を通して長い知己である。林先生は韓国音楽界の大御所、国際的指揮者である。
世界中演奏旅行をしているし、日本ではN響を振っていることでもよく知られている。
今回の訪韓目的は演奏以外に、日本でのアジア大会の相談もあったが、
北朝鮮の独奏者との協演のことも快く引き受けて下さった。
 さて、この学校のことだがなぜ男子生徒が少ないのか、と尋ねてみた。
韓国は先進国並みの経済を目指して、大変努力している国であり、そのために大学を志望する生徒が増えているとのこと。
音楽をやっていては生活の安定が得られないという気持ちが強いため、男子生徒の数が少ないのだ、といわれた。
それに日本と同じく、塾に行く子供が多くなり、何でも競争が激しく、ここでも子供の教育に悩まされているとのことであった。
このハイスクールでも、音楽の勉強より学科の方が大変で、このハイスクールから大学に入る率は他のハイスクールからの入学率より良い。
ということは、それだけ学科の勉強に時間をとられるということで、私には納得がいかなかったが、いろいろと国の事情もあるのであろう。
校長室に伺ったとき、英語が聞こえてきたので、アメリカ人でもいるのかと思ったらそうではなく、
アメリカ帰りの辛慶昱(シンキュンウー)校長が職員と英語で話をしていた。
この学校はキリスト教の学校でもあるので、英語を勉強している人とは、できるだけ英語で話をするのだ、といわれた。
また驚いたことに、日本語熱が盛んで、たくさんの人たちが日本語を勉強しており、
このオーケストラに生徒たちも、何人かが日本語で話しかけてきた。
学科に音楽、語学と意欲十分の韓国であった。(バイオリニスト)

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