第6回『音楽も国威向上のためか エリート教育の中国、北朝鮮』小林武史

中国のことを中共といって、国交前にはいろいろと憶測で判断していた時期があった。
クラシック音楽は禁止されていて、モーツァルトを弾いたピアニストが、指を切断された、という話(うわさ)を聞いたことがあった。
日中国交回復十周年記念行事の一環として、團伊玖磨先生と1ヶ月にわたり演奏旅行をした。
モーツァルトの協奏曲も演奏して、珍しいことではなくなっていた。北京や上海などの音楽学校も視察した。
数年してまた音楽学校を訪れる機会があった。
前のときと同じく、子供たちがきらきらと光る目をして、勉強していた。
私たちがオーバーを着て、なお寒がっているところで、子供たちは素晴らしいレベルでサラサーテを弾いてくれた。
われわれ日本音楽家代表団のメンバー全員の目に光る滴を見た。
1985年に、朝鮮民主主義人民共和国の4月の春、親善芸術フェスティバルに、やはり、團先生とご一緒に参加した。
レベルの高い国立オーケストラとも協演させて頂いた。
北朝鮮には3回行ったが、3回目に平壌舞踊音楽大学で指導することになり、芸術祭出演の10日前に到着した。
毎日ホテルから学校までレッスンに通った。大学の中に小学生部門もあり、たくさんの子供が勉強していた。
ここのレベルも相当高く、驚いたことに、モーツァルトやベートーベン、バッハまで子供のうちから勉強している。
共産主義は宗教音楽を否定しているのかと思ったのは大きな間違いであった。
中国も北朝鮮も小学校の音楽部に入る前に、音楽幼稚園で教育を受けるそうで、中国では上海の音楽幼稚園を見学に行った。
暖房のない教室で園児たちは、綿入れ上着にくるまって、日本の子供たちには見られない静けさの中で、熱心に先生のいうことを聞いていた。
驚いたことに、ほとんどの子供たちには親が付き添って、メモをとっていた。
先生の教え方もあらゆるメソッドを集結したものを、理想的にまとめて教材に使っていた。
北朝鮮での音楽幼稚園は見学できなかったが、おなじようなものだ、といっていた。
全く理想的な教育なのだが、一つ気になることがある。
私は日本中の文化会館に音楽院を置き、子供たちにアジアの子供たちと交流できるように、文化の環境を、と提唱しているのだが、
それはもちろんプロとしてではなく、音楽という国際語で交流させたいと願ってのことである。
ところが、中国や北朝鮮ではテストを受けて、可能性のある子が音楽幼稚園に入れて、
そこから音楽大学付属の小学校に入るのにまたテストがあり、中学、高校、大学へ行くまで残った生徒はみな優秀な生徒ばかり、
ということで、音楽といえども国威向上のため、という風に感じられた。
もちろん、一般家庭で趣味としてクラシック音楽をやらせている人がないとはいえないが、
特種な人だけが分かり合える音楽であってほしくない。
子供は世界中、みな同じで、音楽は国際語なのだから。(バイオリニスト)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA