「音楽現代」2006年5月号 第10回《音楽と旅して》(その5)

「子供たちの響き アジア」実行委員会  代表 小林武史

北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)滞在中の日記(承前号)より

 四月一日
 寝不足、朝食お粥。
 ゆっくりして昼食後、一時半に学校へ行く。
 子どもたちは大変、上手い。
小学三年生から五年生ぐらいまでの子どもたちにボーイング(右腕で弾く弓の使い方)の説明をして、個人レッスン。
折れた弓を、紐で結んで弾いている子もいた。
日本から送ってあげよう(帰国後、楽器と弓をたくさん送った)。
 他に音楽幼稚園があるといっていた。
 先生方がたくさん集まって来たが、あまり愉快な顔はしていない。
しかし時間が経つと段々熱心になって来た。
最後に、私の得意な難曲を弾いて聴かせた。
全員、尊敬の眼差しになった。

 ホテルに帰り、芸術祭の準備委員会の人と打ち合わせをする。
 何をやるか、曲目は前の日に決めるとのこと。
演奏家にとっては大変ツライことである。責任者の名前を開いたが、教えてくれなかった。
 民族料理を食べに行く。いつも通訳と案内人と運転手を連れて行くので、費用がかさむ。
 明日で終わりにしよう。
 部屋を替われ、とのこと。暖房機器が壊れたからだそうだ。
今日から(二-十七-二十四)。
 さっき買って来た朝鮮人参茶を飲む。
朝鮮半島の人たちはあまりお茶を飲まないので、我々のいう緑茶というものが無い。

四月二日
 薬を飲んで寝たので、、よく眠れた。
もう少し横になっていたかったが、思い切って起きる。

 午前中、買い物に行く。玉(ギョク)で造ったキムチ鍋を二つ買う。
五百ウォンを値切って、三百五十ウォン払う。
チェコが社会主義体制時代には、値切ることはできなかった。
 件の学生の通訳。私には何でも急げ急げというくせに、自分は頭が痛いとか何とかいって、
いわれたことをすぐやらない。少し甘やかし過ぎたのかもしれない。
 麝香(じゃこう)を買いに行くが、一グラム五十ウォンとのこと。
しかも、前と違って本物かどうか分からない。やめておこう。
 清流館に行って冷麺を食べる。玉流館より安いが、あまり旨くない。
食べる方(こっち)が贅沢になったのかも知れない。
ホテルに帰り、すぐ学校へ行く。
 とにかくレベルが高い。日本語のうまい女性の先生もいて協力してくれる。
先生方も大分打ち解けて来た。学部長も見学に来ていた。
 中にはもの凄いテクニックを持った女の子(十七歳)もいたが、
音の出し方に問題があった(音を押しっけて弾くクセがあった)。午後六時半までレッスンをする。
 今度はここの先生に、私が弾くことになっている朝鮮の曲を聴いてもらった。
テンポその他を直してもらう。感謝。
 日本から後続組が来るが、ピアニストは北朝鮮の人とやるほうがよいといわれたので、
委員会に報告したら、それは大変よいことだといわれた。
 マッサージを頼んだ。英語で予約したのだが遅れて来た。
五十分と十五分の間違いだということが分かって、大笑い。
マッサージ代四十ウォン。

四月三日
朝、さらって、学枚に出かける。
とにかく生徒が熱心なので驚く。時間をオーバーしても楽しい。
 また秋に来ることを約束する。
 校長先生は、だれでも好きな子を日本に連れて行ってよいというが、全部欲しい。
そんなことは実現できっこないのだが。
 中国の子どもたちも立派だが、北朝鮮の子どもたちにはただ感嘆、感激するのみ。
 帰って葉書を書き、マッサージを頼んで、夜十一時就寝。

 四月四日
 朝食は部屋で、ビスケットとコーヒーで済ます。さらっていたら掃除に来る。
昼食をして一服。昼、一時五十分に出発。学枚で夜七時までレッスン。
その後で、ここのピアニストと合わせる。ものすごく上手い。
この女性ピアニストにも、朝鮮の曲を直してもらう。
曲想が違うので、またさらい直さなければならない。大変だ、大変だ。

 この音楽舞踊大学では、小学生は四年制で六十人、中学生三十八人、高校生三十人、大学生四十人とのこと。
 ホテルのロビーで、アメリカ国籍の女性チェリストと話しをした。
家族は皆、アメリカにいるといっていた。

 四月五日
 ここの女性ピアニストと練習、本当に上手い。
 楽器の調子が悪くなった。一七四二年製作の楽器、ちょっとしたことで調子が狂う。
弦を取り替えても駄目、音がひっくり返る。
 午後から学校。
 生徒の録音をとる。ものすごく古いポータブルの録音機だったが、どうしてもテープを持ち
帰り、日本の音楽家たちに聴かせてやりたかったから。
 学校からの帰り、先生方皆で見送ってくれる。
今日は午後五時までに劇場へ参観に行くことになっていたが、断わってレッスンを続けた。
 明日は日本組が到着する。
 マッサージ、とても良心的だった。・・・・・

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